ソファー(9/10)

郁美へ

覚えていますか? 君の父親です。私の方から母さんに連絡をして、ここ数日、私と母さんと私の両親を交えて、話し合いをしていました。
たまたま喧嘩が重なってしまったらしく、家を留守にする理由を言えなかったそうですね。元々連休を取って貰って、私の両親の家に泊まってもらう予定でした。本当に家出をした訳ではないので、どうか安心して下さい。
さて、謝らなければならない点が、たくさんあります。電話と、ドアへの投函物のことです。
母さんと話をしていたら、郁美が二十歳になったことを知りました。するべきではないと分かっていましたが、どうしても声が聞きたくなり、電話をしてしまいました。しかし、今更何を話せばいいか分からず、最低な行為だとは知りつつも、そのまま切ってしまいました。怖がらせてしまったと思います。本当にごめんなさい。
その翌日、これが最後だと決めて、もう一度だけ電話をしました。あの時、もう少しだけ待っていてくれたら、話ができたかもしれませんが、彼氏の声を聞いて驚いた私は、またもや電話を切ってしまいました。人として、どうかと思います。それに比べて、彼は実にしっかりしていましたね。大事にしてあげて下さい。
その夜は、また君を困らせたと思います。母さんが喧嘩別れのようにして家を出たことは初めから聞いていましたが、お金を置いてこなかったことは、今日になって初めて知りました。
心配で溜まらなくなった私は、深夜に君の住むマンションへ車を走らせました。本当は顔を見たかったけれど、深夜だし、また彼氏が出てきたらどうしようかと考えると、ただただ玄関の前に立ち尽くすしかありませんでした。
最後まで勇気を出せず何もできなかった私は、せめてもの償いにと、封筒にお金を入れ、ドアのポストに入れておきました。こんな父親でごめんなさい。ただ、一つだけ信じて欲しいのは、君を忘れることは一日足りともなかった、ということです。
母さんは、明日こちらを発つと言っているので、この手紙が届く頃には帰っていると思います。
最後に、遅くなりましたが、誕生日おめでとう。

父より

手紙を読み終えて、私たちは大笑いした。なんと不器用な人なのだろう。母が別居した理由も頷ける。勉くん、君の義父さんよりもお馬鹿かもしれないよ、私の父ったら。
「もう、本当に、どうしようもない人ね。しなくても良いことばかりするんだから。昔から、全然変わってない」
母はとても楽しそうに父のことを語っていた。どうして皆、駄目な家族の話をすると、表情が明るくなるのだろう。

「母さん、あのね」
息を大きく吸い、ゆっくりと吐いた。心配することはない。私の本心を伝えよう。もう、黙ったり、隠したりはしない。心から信頼し合える関係を築こう。
「今度、うちに連れて来てもいい? 私の大切な人」
「うん、もちろん。歓迎するよ」

ありがとう――思わず私は、母を抱き締めた。身長差はほとんどないが、母の体はとても大きく感じられた。彼の胸で眠ったときとは、また違う優しさと温かさを兼ね備えていた。
母が息を吸い、肺が膨らむのを感じた。

「郁美、嫌だったらいいんだけどさ」
「うん、何?」
「あの、どうしようもない父さんがね、家族で食事したいって言ってるの」
「ふふ。あんな強烈な手紙を貰ったら、逆に会いたくなっちゃったよ」
「じゃあ、郁美の彼氏も誘って、四人で食事しましょうか」
「うん、大賛成」