クリスマス・ベル

やあ、君。こんばんは。こんな時間にどうしたんだい。眠れない? ふんふん、サンタさんを信じてるって学校で言ったら馬鹿にされてしまったんだね。それはひどい。うん、サンタさんの正体は誰かって? そうだね、「君のパパだよ」と言う人もいれば、「みんなの心の中にいるんだよ」と言う人もいる。でもね、僕は違うんだ。サンタさんっていうのはね、いるとかいないとか、信じるとか信じないとか、そういうことじゃないんだ。例えば君、意識していなくても当たり前のように空気を吸っているだろう? 空気があるとかないとか、信じるとか信じないとか、そんなこと考えもしないよね。

だから、あの人は――いや、人と呼ぶのもどうだろうね。とにかく、サンタさんについて語ると、僕はちょっと熱くなっちゃうよ。なんでかって? ふふっ、だって、僕はね、僕が君くらいのときに、サンタさんに会ったんだ。ああ、今も思い出すなぁ。あの夢のような体験。楽しくて、幸せで、世界中が輝いていたあの夜のこと。今でも、昨日のことのように思い出すんだよ。さあ、今夜はクリスマス・イブ。君にとっておきの話をしようじゃないか――。

うんと昔のクリスマス・イブのこと。僕は今の君みたいに小さくて、皺も髭もなかった。信じられないかもしれないけど、僕にもそんな頃があったんだよ。その日、僕はサンタさんに会いたくて仕方なかった。サンタさんは、前の年も、その前の年も、必ずプレゼントを枕元に置いてくれた。毎年クリスマスになると、次の日の朝が待ち遠しくて、わくわくしてたまらなかった。明日がこんなにも楽しみでいられるなんて、サンタさんはなんて素敵な人なんだろう。僕もそんな大人になりたい。会ってちゃんとお礼が言いたい。できればお手伝いもしたい。だからその日は、サンタさんが来るまで起きていることにしたんだ。

いつもは夜の9時には寝てしまうけど、がんばって起きていたんだ。数分置きに強い眠気がやってきて、一瞬意識がなくなって、ビクっとして目覚める。そんなことを繰り返しながら、日付が変わるのを待ったんだよ。これを逃したらまた一年間会えなくなってしまう。一年間も後悔し続けるなんて、絶対に嫌だったからね。一人でしりとりをしたり、なぞなぞを考えてみたり、好きな子のことを思ってみたり、起きるためにいろんな工夫をしていたんだ。そして、ついにその時が来た! カラン、カラン。町の教会で鐘が鳴る。僕は布団から飛び起きて、カーテンを開けた。月がとても明るくて綺麗でね。今にもサンタさんがやって来そうだった。

サンタさん、早く会いたいです。この町に着いたら、まず僕の家に来てください。教会の北、商店街を抜けて、角の肉屋さんを曲がってすぐ、茶色い煙突が目印です。もちろん暖炉は掃除しました。煙突に入って、暖炉を出たら、そのまま正面のドアを開けてください。目の前にある階段を上り、ひとつめがパパとママの部屋。ふたつめが僕の部屋です。朝までは起きていられないかもしれません。1時くらいまでに来てくれませんか。お願いです――。ガチャ、ドアの開く音がした。慌ててドアの方に振り向くと、サンタさんではなくパパだった。早く寝なさいと注意され、僕はベッドに戻った。いよいよ眠気がピークになってきた。サンタさん、お願いです。僕はお礼が言いたいのです。サンタさん、サンタさん――。

カラン、カラン。あれ、もう1時なのかな。目を閉じたまま、半分寝ているような、ぼんやりした頭で鐘の音を聞いた。カラン、カラン。なんだかすごく落ち着く。うっすら目を開けると、窓から青白い光が射していた。カラン、カラン。音が大きくなるに連れて、明るさが増す。光は少しずつ白っぽくなり、やがて部屋全体が真っ白になるくらい強烈に光った。カラン、カラン。頭の中で鳴り響く鐘の音。カラン、カラン。どこまでも大きくなる鐘の音。カラン、カラン。僕の頭が鐘になって、誰かがついているんじゃないかって思ったよ。カラン、カラン。耳からじゃなく、僕自身が鳴っている。カラン、カラン。カラン――!

最後の鐘の音で、僕の体は音と光に包まれた。もう目を開けているかどうかも分からなかった。だって、開けても閉じても真っ白なんだもの。でも、不思議と怖さはなかった。なんだかふわふわとして、ママのお腹の中にいるときは、こういう感じだったのかなって思ったら、とても幸せな気持ちになったんだ。その感覚を楽しんでいたら、次第に目が慣れてきたのか、うっすらとものの輪郭が見えてきた。目に入ったのは、大きな鐘だった。試しにドアをノックするように軽く叩いてみたら、さっきよりさらに大きな音がして、鐘の音は洪水のように鳴り響いた。僕の体は、雷に打たれたんじゃないかってくらい全身がビリビリして、もう死んじゃうかもしれないと思った。そういえば、僕は今どこにいるのだろう。鳴り止まない鐘の前で不安になっていると、背中のほうがじんわり暖かくなった。振り返ると、そこにサンタさんがいたんだ。

サンタさんは、僕にこういった。「君の気持ちは、受け取りました。どうもありがとう」って。僕は涙が止まらなくなってね。泣きながらいろんなことを話した。サンタさんに何を言ったのか、ちゃんと伝わったのか分からないけど、とにかく僕はサンタさんに気に入られたみたいだった。「よかったら、一緒においで」僕は喜んで着いて行った。まんまるな目をしたトナカイに挨拶をし、サンタさんの大きな背中にしがみつき、僕とサンタさんは世界中の空を駆け巡った。月と星が眩しいくらいに輝いていた。場所によって、空や地面や森や川の表情が違うことを知った。「今、世界中が夜なのです。学校で習ったのとは違うでしょう。クリスマスは、月と子供たちが主役なのですよ」そんな話をしてくれた。

僕はずっと知りたかった疑問をぶつけてみた。「サンタさん。どうやって、たった一日で、世界中の子供たちにプレゼントを渡すのですか?」教えてくれないと思ったら、意外なほどあっさりと答えてくれた。「さっき、ベルを見ましたね。あれは、子供たちがみな持っているものなのです。夢だったり、願いだったり。たくさんの大事なものが詰まっています。ごく一部の人たち以外は、大人になるまでにベルを捨てたり、無くしたりするようです。クリスマスになると、子供たちの鐘は純粋な願いで一杯になります。そこで、私は鐘を鳴らします。その音は一瞬で近くの鐘に共鳴し、隣の鐘、そのまた隣の鐘へと繋がり、あっという間に地球の裏側まで届くのです」サンタさんは落ち着いた口調で、話し続けた。

「さっき、君が鐘を鳴らしてくれましたね。あれが、サンタの仕事。私は最初の鐘を鳴らすだけなのです。鐘に込められた子供たちの想いは、音と共に弾け、形になります。それを君たちのパパやママが、届けてくれるのです。私はただ、世界中の子供たちにプレゼントが届くキッカケを作っているに過ぎないのです。君のパパも、今頃プレゼントを届けているでしょう」あっ、そうだ! あんまり外に長くいたら、僕の部屋にパパが来ちゃう。僕がいなくなったら心配する。警察に連絡するかな。そしたら町中が騒ぎになって、クリスマスどころじゃなくなっちゃうかな。お巡りさんだって、パパだよね。プレゼントをあげるよね。その邪魔をしたらダメ、絶対にダメだよ。「そろそろ帰りましょう」「うん」僕はサンタさんとハグをして、家に帰してもらった。ガチャ、ドアの開く音がした。パパとママのささやき声が聞こえる。「うん、やっと寝たみたい」「良かった。起こさないように、そっとね」

これで僕の話はおしまい。この話を信じるかどうかは、君が決めればいい。ほら、もういい時間だ。早く帰らないと、君のパパとママが心配するよ。僕はいつでもこの場所にいるから、また困ったことがあったら、いつでもおいで。はい、おやすみなさい。さて、と。僕もそろそろ眠るとしよう。今夜はクリスマス・イブ。僕は幸いなことに、今でも鐘の音が聞こえる。僕の鐘は、家族や友人とのかけがえのない思い出で一杯だ。幸せな思い出が、鐘の音と共に、世界中の子供たちに届きますように。それが、今の僕の願い。さあ、今年も長い夜が始まる。カラン、カラン。カラン――!<了/3406文字>