映画レビュー『聲の形』

『聲の形』、NHK Eテレにて地上波初放送!

2018年8月25日、私の大好きな京都アニメーション制作のアニメーション映画『聲の形(2016年公開)』が、NHK Eテレにて地上波初放送されました。地上波放送を機にこの映画に触れた方も多いのではないでしょうか。

私は2016年の公開当時に、映画館でこの作品を見ました。とても印象深い作品でしたので、感想をまとめてみようと思います。

あらすじ(ネタバレあり)

映画は主人公・石田の少年時代から始まります。石田の通う小学校に、聴覚障碍者の少女・西宮が転入してきます。最初はちやほやされる西宮でしたが、次第にいじめの標的になっていきます。石田は西宮が気になる存在になりつつありましたが、その気持ちが何なのか、子供だった石田には分かりませんでした。

もやもやした気持ちは苛立ちに変わり、西宮へのいじめはエスカレートしていきます。ある時、石田は西宮の補聴器を壊した上、怪我を負わせてしまいました。石田は西宮産の補聴器をひとつだけではなく、何回も壊していました。

後日、石田のお母さんは、西宮さんのお母さんに札束を渡しました。高額な補聴器の弁償代です。それを見ていた石田は、「とんでもないことをしてしまった……」と反省します。以降、石田は逆にいじめの標的にされてしまいます。友人と思っていた同級生から距離を置かれ、中学になっても同じような状況が続きます。

高校生になった石田は、すっかり生きる目的を失っていました。小学生の時、お母さんに補聴器代を払わせてしまった後ろめたさがずっと残っていました。石田はアルバイトに精を出して、お金を貯め、母親に札束を渡しました。石田にとって、これで悔いはないと思ったのでしょう。これをもって自殺する予定でしたが、未遂に終わりました。

『聲の形』は、いつまでも心に残る作品

……と、このまま書き続けるとただのネタバレになってしまうので、割愛しますが、とにかく見ていて辛い作品でした。というのも、私は10代の頃から生きるのが辛くて、死にたいと思うことが何度もあったからです。30代になった今でも生きるのはしんどいのですが、それでも死んだらこれまで生きてきたことが無駄になってしまうと思いますし、悲しんでくれる親や友人がいてくれるので、死ぬわけにはいかないのです。もうひとつは、これまでに動物や魚の命を数え切れないくらいいただいているのに、私が死んでしまったら、その命も無駄になってしまうと感じるのです。

冒頭だけでなく、中盤も辛い出来事が続きます。それでも最後はハッピーエンドといえる内容で、見終わったあとは清々しさが残りました。どんなに辛い境遇でも、いつかは救われるのだという、山田尚子監督率いる制作チームのやさしさが伝わる映画でした。いじめた経験がある人、いじめられた経験がある人、いじめを傍観していた人、学校にあまり行けなかった人、それぞれの立場を思い出しながら見てほしい作品です。

胸をえぐられるような気持ちになる人も少なくないでしょう。ヒロインの西宮は聴覚障碍者ですが、「障碍者だから良い人! 何も悪いことをしていないのにいじめられて可哀想!」といった、ドラマや映画にありがちな障碍者を神格化・美化していないのが良かったです。西宮にもいじめられる要因があり、障碍者も健常者も同じ人間なのだ(この感覚が欠如しているドラマや映画は多いです)という姿勢に、とても好感を持ちました。

興行収入が歴代ベスト4にまで上り詰めた『君の名は。』(2019年現在2位)は、何もかもが優等生的な作品で、誰にでも勧められます。一方で『聲の形」』は、ここまで複雑な心理描写ができるのだという、アニメーション映画の可能性を提示してくれた作品です。映画館で『君の名は。』を見終わった後は、最高の映画を見た気分で、心地よい高揚感がありましたが、今では内容をほとんど忘れてしまいました。

一方、同時期に見た『聲の形』は、今でも記憶にしっかりと刻まれています。映画を見てからしばらくは、「あの場面は、こういう意味だったのか!」とか、「主人公と西宮さんは幸せになれたかな?」とか、日常のふとした場面で、登場人物たちのことを思い出すことがありました。それくらい、奥深い映画なのです。映画の内容を思い出すだけで、軽く鳥肌が立ちます。思い出すだけで鳥肌が立つことは、なかなかありません。

年齢を重ねる度に、心は鈍くなっていきます。余計な知識ばかりを増やしていって、知ったかぶって、感動できなくなっていきます。そういう大人は、綺麗な話を毛嫌い、制作陣の純粋な気持ちを疑い、あの作品のパクリだなどと、揚げ足とりに忙しいようです。映画や芸術作品を鑑賞する上で大切なのは、作品と正面から向き合い、制作陣の気持ちをまっすぐに受け止めることです。この感覚を失ってしまった人には、良さが伝わらない作品だと思います。

『聲の形』は、現実世界の辛さを見せつけられる作品であるが故に、人によっては敬遠したくなるかもしれません。しかしそれ以上に、救いがある作品です。辛いだけではありません。辛くても、しっかりと生き抜いた先に、希望があることを教えてくれる作品です。10代を辛く生きてきた人にこそ、目を逸らさずに見てほしい作品です。

こうしてレビュー記事を書きながら、キーボードを叩く指先に力が入ります。下手なことを書いてしまっては、作品に対して失礼ですから、気合も入るってものです。何度も言いますが、本当に素晴らしい作品です。『君の名は。』は、老若男女を問わず、幅広い世代にジブリ映画以外にも面白いアニメがあるという事実を広めてくれました。

アニメーション映画の素晴らしさを知った人は、ぜひ『聲の形』を見てください。きっと、あなたの人生の大切な思い出になる、素敵な作品です。