谷崎潤一郎「途上」を読んで、藤子・F・不二雄の短編「コロリころげた木の根っこ」を思い出す

日に日に寒くなり、長湯が増えた。風呂は他ごとをしていないと、長く浸かっていられない。サウナにテレビが置かれているのは、意識を外部に集中させることで、暑さを一時的に忘れられるからであろう。

湯に浸かりながら、防水仕様のKindle Oasisで、谷崎潤一郎の短編「途上」を読む。私立探偵が、犯罪の疑いがある男に話しかけ、じわじわと男を追い詰める話。前半、男はまさか自分の犯行がバレているはずがないと余裕の表情で、よく喋るのだが、途中から徐々に口数が減り、最終的に手が震えてガクッと座り込む描写が実に小気味よい。

男の犯行というのは、直接的な犯罪と言えるかどうか微妙なところだが、ようするに、前妻を間接的に殺したということである。男は、前妻を殺すために、さまざまな工夫をする。前妻のためにと、食べ物や水、生活習慣や移動手段、訪問先を決めるのだが、それらは全て前妻を病気に罹りやすくするため、あるいは事故に遭いやすくするためで、最終的に殺すことが目的なのであった。この手の犯罪は実際にありそうで恐ろしい。

この話を読んで、藤子・F・不二雄の「コロリころげた木の根っこ」を思い出した。作家の夫から激しいDVを受けている妻が、密かに夫を殺そうと家の中にさまざまな仕掛け(食生活、動物、空き瓶など)をする話。「途上」とは男女が逆転するが、設定が少し似ている。私は藤子・F・不二雄の大ファンであるから、F先生が谷崎潤一郎の小説を読んで、着想を得たのだろうかと考えるだけで楽しくなる。

もうひとつ思い出したのは、某有名人の45歳年下の奥さんが、結婚当初に「年寄りに脂っこいものばかり食べさせている! 殺す気だ! やっぱり遺産目当てだ!」と叩かれていたこと。その夫婦は今も続いているから、全くのデマだったのだが、近しい人を殺そうとする手段として、食事はもっともあり得る話だからこそ、広まったデマだったのだろう。

もっとも、食生活に気をつけないと、無意識に最愛の夫や妻、我が子を不幸な目に遭わせることになりかねないのは事実である。「毎日のように、ジャンクフードや添加物たっぷりの食事を家族に食べさせている人」は、いつか「途上」や「コロリころげた木の根っこ」の男や妻のようになる可能性があるから、どうかご留意いただきたい。