たべずにいられない

都心から地方まで、どこに行ってもセルフサービスのカフェやファーストフード店が建ち並んでいます。入店時に挨拶も会釈も求められない。店員といっさい言葉を交わさず店を出ることも可能です。そんな生意気なこと、昔だったら頑固なおじいさんが喫茶店や蕎麦屋の常連になって、初めてできるようなものではなかったでしょうか。小学生相手に「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」なんて、滑稽であると同時に、えも言われぬ気味悪さを感じます。いつから客と店員の距離はこれほど離れてしまったのでしょう。

今日もどこかで食べずにいられない。

昔ながらの店が潰れると、その後にチェーン店が入ることがよくあります。飲食店の従業員はアルバイトが中心。中には素晴らしい接客ができる人もいますが、基本的にはマニュアル通りの仕事です。「この人がいるからこの店に通う」といった、本来は店を選ぶ基準であったはずの「店の味・店の雰囲気」がどんどん無くなっているようです。良い店とは、何も料理の味だけで決まるものではありません。「常連客の雰囲気が良いから」「主人と話したいから」「放っておいてくれるから」「日常を忘れさせてくれるから」「癒されるから」様々な理由があるのです。

誰もが気軽に批評できるようになりました。あることないこと言いたい放題です。その人が合わないと感じたら、その人の味覚や感覚が変であろうが、「まずい店」のレッテルを貼られてしまいます。何の覚悟も必要ありません。命をかけて店を守っている人々を、たった一行で否定できてしまうのです。

例えば自分が飲食店を開いたとしましょう。雑誌に紹介されそこそこ有名になりました。その日は体調が悪く、代わりがいないので無理して店を開けましたが、鼻が効かず納得のいく料理が出せなかったとしましょう。その日に訪れた若者がブログにこんなことを書きました。「雑誌に載ってたけどイマイチ。わざわざ行く価値なし」と。辛いですね。極端な例とはいえ、こういうこともあり得るわけです。

新しい店が生まれる一方で、様々な事情により店が潰れています。グルメぶってウンチクをたれたり粗探しをしたところで、誰にメリットがあるのでしょうか。できれば良い部分を見つけたいものですね。自分に合わないと思ったら、他の店を探せば良いでしょう。「店がそこにある限り、その場所を必要としている客が必ずいる」ということを忘れてはなりません。

この世で一番頼りになる情報は、信頼できる人からの口コミです。
この世で一番おいしいのは、大切な人と一緒に囲む食事です。

気に入らないと激しく批判してしまっていた過去の自分を反省しつつ、一人前の文章が書けるようになったら、再びこの場所でお会いしましょう。おいしい食事は笑顔と共にあります。皆様においしい出会いがありますように。

※「たべずにいられない -世田谷B級グルメ紀行-」というブログの最終回に書いた記事です。