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小説「未来予想図II」

 「続いて話題の新商品をご紹介! あの人気商品が20年ぶりに復活です」
 12月の冷たい風が吹きすさぶ、日曜の昼下がり。リビングのソファーに座りながら、いつものように本を読んでいると、つけていたテレビから聞き覚えのある単語が耳に飛び込んできた。テレビに目をやると、私が子どもの頃に夢中になっていたおもちゃの新型が紹介されており、懐かしさのあまり声を上げた。
「『未来予想図Ⅱ』だって! 懐かしい……これ、小さい頃に持っていたんだよ」
「そうなんだ。俺は知らないなあ」
 キッチンでコーヒーを淹れようとしていた恋人のヒロが返事をする。
「女の子向けの占いのおもちゃでね、当時けっこう流行ってたんだ。もう20年も前なんだねえ……」
 私が子どもの頃に持っていた『未来予想図』は、色と形で未来を占ってくれる箱形のおもちゃだ。電源を入れ、質問の内容が決まったら、「未来予想」ボタンを押す。すると、箱の中が赤、オレンジ、黄、緑、青、紫、ピンク色に光り、星、月、丸、三角、ハートなどの形が現れる。この色と形の組み合わせによって、様々な回答が用意されているのだ。青色の星形だったら「シリウス」、赤色の月形だったら「ブラッドムーン」のように、名称が用意されているのも特徴である。
 この『未来予想図』は、今もネットオークションで高値で取引されている。理由は本体付属の解説書にある。文庫本サイズの解説書には、色と形の組み合わせに対し「恋愛」「勉強」「未来」など複数の回答が記載されている。各項目について丁寧に説明されているだけでなく、星座ごとに分けられているから驚く。つまり、「シリウス」だけでも12通りの説明が書かれているのだ。
 ひとつの組み合わせの説明に1ページを要するため、解説書は分厚く、総ページ数は500を超えていたように思う。さらに解説書の監修をした占い師は、のちにテレビで引っ張りだこになるほど有名になったため、今も熱心な占いファンに指示され続けている。
 私は分厚い『未来予想図』の解説書をかなり読み込んだ。長編小説に匹敵するほどの文章量で、
私が読書を好きになったのも、この解説書の影響が大きい。毎日違うページを読むだけでも楽しく、自分の星座である乙女座に関するページは、そらで言えるくらいだった。
「お待たせ。今日はマンデリンだよ」
 コーヒーを淹れ終えたヒロが、コーヒーカップをふたつ持ち、ソファーの前のテーブルに置いた。
「ありがとう」
 私がコーヒーに口をつけると、情報番組のゲストである女性タレントが「私、昔すごくはまってました!」と声を張り上げていた。
「そうそう、未来のこととか、恋愛のこととか……いろいろ分かるんだよね。懐かしいなあ」
 私は女性タレントの発言に共感し、うんうん頷いた。
「アキ、この商品ほしいの?」
 付き合い始めて7年、ヒロからプレゼントをもらったことはあまりなかった。珍しいことを聞くものだと思いながら、
「ちょっと高いけど……これならほしいかもねえ」
 と少しだけ期待するような返事をした。
「そっか」
 ヒロはそれだけ言って、コーヒーをすすった。 
 
 私とヒロは大学3年生のときに出会った。同じゼミ仲間で、最初の印象は「人見知りの激しい人」だったが、同じ時間を過ごすうち、少しずつ仲良くなっていった。4年生になっても就職先が決まらず焦っていた私に、ヒロは親身になって相談に乗ってくれた。ヒロは早い段階でデザイン事務所での採用が内定しており、一緒にいる時間が長くなった。ヒロに「アキはどんな仕事がしたいの?」と尋ねられたとき、うまく答えられなかったことを覚えている。
 それから私は自分のやりたかったことを真剣に考え始めた。しばらくして、小さい頃から本が好きだった私は、「本に関わる仕事をしよう」と決めた。しかし、決断するのが遅すぎたようで、大手の出版社には既にエントリーすらできない状況だった。
「ダメだ、もうどこにも就職できないよ……」
 私がショックを受けていると、ヒロは冷静な口調でこう言った。
「アキは編集者になりたいわけじゃないんだよね? だったら出版社に就職しなくたって、本に関わる仕事はあるはずだから、探してみたらどうかな」
 ヒロの提案に、私は行きつけの書店を思い浮かべた。
 私には大好きな書店があった。『活字中毒』という思い切った店名で、駅から少し離れたところにある。広い店内の壁一面に本が敷き詰められており、書店というよりも図書館と呼んでも違和感がないくらいだった。初めて訪れたときは思わず店の入り口に立ち止まり、店内を見渡したものだ。以来、『活字中毒』に足しげく通うようになると、六十代くらいのいかにも本が好きそうな店長に顔を覚えられ、「アキちゃん」と呼ばれるようになった。
 この店のすごいところは、ネットで手に入らないような本も、店長に尋ねれば「ちょっと待ってて」と従業員用の扉を出て行き、五分もすれば目的の本を大事そうに抱えて戻ってくるところだ。店内だけでも十分な品揃えなのに、まだ本が眠っているのかと驚きつつ、店長の本を大事にする姿勢に好感を持った。さすが『活字中毒』の店長、本を愛する気持ちもさぞかし強いのだろう。
「私、活字中毒で働きたい」
「えっ?」
 唐突な私の発言に、ヒロは素っ頓狂な声をあげた。そして私の両肩に手を置き、
「アキ、そんな仕事はないよ? たしかに君は活字中毒と言えるくらい、いつも本を読んでいるけど……しっかりしてよ」
 と私の肩を揺らした。私はくすりと笑い、『活字中毒』という書店があることを説明した。
「そういうことか……驚かせないでよ」
 ヒロはため息をつきながらも、安心した表情を浮かべた。そして、
「じゃあ、その書店に直接聞いてみたらどうだろう?」
 と提案してくれた。たしかにいつも通っている書店だし、直接聞くのが早そうだ。
「うん、そうしてみるよ。ありがとう!」
 ヒロに礼を言って別れた後、私は早速『活字中毒』に向かった。入り口の扉を開けようとすると、目立つ場所に「社員・アルバイト募集中」と書かれた貼り紙があった。いつもお店に出入りしているのに、まったく気づかなかった。
 店内に入ると、折よく店長がレジに立っており、「アキちゃん、いらっしゃい」と微笑んだ。私は思いきって店長に尋ねた。
「あ、あのあの、こちらで働きたいと思っているのですが、ぼ、社員の募集はまだされてますでしょうか?」
 緊張して変な日本語になってしまった。店長はしわの多い顔をさらにしわくちゃにして、「はっはっは」と大きな声で笑った。
「アキちゃんなら大歓迎だよ。一応、履歴書だけ書いてきて、また好きなときにおいで」
 その後、面接という名の数時間におよぶ文学談義の末、内定が決まり、大学卒業まではアルバイトとして『活字中毒』で働くことになった。ヒロに内定が決まったことを伝えると、私以上に喜んでくれ、二人で飲もうと誘われた。
 居酒屋でお酒を飲んだ後、私とヒロは手をつないで駅まで歩いた。その途中でヒロに告白され、私たちは付き合うことになったのだ。
 
 あれから7年。29歳になった今も、私とヒロの恋人関係は続いていて、今は都内のマンションで同棲している。私は変わらず『活字中毒』で働いており、ヒロもデザイン事務所での仕事が忙しい。友人から「結婚はまだ?」とよく言われるが、お互い仕事のことで手一杯ということもあって、結婚するタイミングを逃し続けて今に至る。以前は「30歳までには……」と答えていたが、それも難しそうだ。
 12月中旬。デザイン事務所の仕事は年末進行でいつも以上に忙しく、ヒロはたいてい終電ぎりぎりで帰ってくる。時計の短針が「12」を回り、土曜日になった頃、ガチャガチャと玄関の鍵を開ける音の後がした。
「ただいま」
 ヒロの声が廊下に小さく響く。
「おかえり」
 玄関まで迎えに行くと、ヒロは右手に家電量販店の大きな袋をぶら下げていた。私は「何か買ったの?」と尋ねたが、ヒロは「うん、いいから」と左手で張り手のポーズをとり、私をリビングへ押し戻した。
 ヒロはにこにこしながら、きれいにラッピングされた大きな箱をリビングのテーブルに置いた。
「はい、プレゼント」
 まさかと思いラッピングを外すと、先日テレビで紹介されていた『未来予想図Ⅱ』だった。
「実はすごくほしかったんだ。ありがとう!」
 ヒロからのプレゼントに、私は心の底から嬉しくなり、ヒロに抱きついた。
 翌朝、私は少しだけ早起きした。ヒロへのお礼にと、スーパーで食材を購入し、家に帰り、気合いを入れて昼食を作った。洗濯と掃除を済ませたら、いよいよ待ちに待った時間だ。
「よし、『未来予想図Ⅱ』を試そう」
 テーブルに置かれた『未来予想図Ⅱ』をおもむろに眺める。20年ぶりの新型ということで、旧型とはまったく別物のようだ。大人向けに作られているため、値段もけっこう高く、作りがしっかりしている。旧型はちゃちな作りだったが、新型はインテリアとして飾れるくらい洗練されたデザインになっている。
 新型には携帯電話向けのアプリが用意されており、アプリから本体を操作できる。アプリに質問や答えを保存でき、付属の分厚い解説書は撤廃された代わりに、データとしてアプリに収録されている。占いの用途のみならず、色や明るさを自由に調節できる室内照明としても活躍するらしい。さらに高音質のスピーカーが内蔵されており、音楽も楽しめるという優れものだ。
「20年経つと、こんなに進化するんだねえ」
 思わず感心する。外は晴れ、明るい日差しが窓から入り込んでいた。しかし私は自然に逆らうようにカーテンを閉め、できるだけ室内を暗くした。薄暗い部屋でソファーに座る。せっかくだから携帯電話のアプリで操作してみたいと思い、アプリをダウンロードし、準備完了。胸に手を当て、軽く深呼吸。テーブルの上に置いた『未来予想図Ⅱ』をじっと見ながら、アプリの起動ボタンを押した。
 幻想的で美しいメロディーが流れ、思わずドキッとした。いきなり音が出るとは思わなかったからだ。やがて本体がぼんやりと白く発光を始めた。旧型とは違い、全体が発光するようだ。本体のスピーカーからは神秘的な音楽が静かに流れ始めた。少しして一定の明るさになると、白から黄、黄から緑、緑から青へと、ゆっくりと色が変わっていく。
 私はソファに深くもたれ、天井を眺めた。暗くなった部屋の天井に色がつく。天井が青く染まれば青空に、ピンクに染まれば夕焼けのように見えた。『未来予想図Ⅱ』が発する音と光に心地よくなった私は、ソファに横になり、やがて子どもの頃を思い出していた。
 
「すっごい当たるんだよ!」
「こんなに当たる占いは初めて!」
 小学三年生の夏休みが終わり、二学期が始まると、クラスの話題は『未来予想図』で持ちきりだった。
「お母さん、私にも買ってよ。ねえ!」
 私はどうしても『未来予想図』がほしかった。誰にも言えなかったけど、私には好きな人がいた。将来、好きな人と一緒になれるかなって、気になるのは当たり前。もうすぐ私の誕生日だから、お母さんがそのタイミングで買ってくれるはずだと見込んでいた。
「お母さん、聞いてるの? ねえ、買ってったら。ねえ、ねえ!」
 何度も何度もねだっていたら、お母さん、こう言ったんだ。
「わかったから、誕生日まで我慢しなさい。ただし、もうねだっちゃだめよ」
「わかった! もうねだらないから、約束だよ」
 一週間後、とうとう私の誕生日がやってきた。この日は朝からそわそわしていたっけ。お父さんもお母さんも、私がそわそわしていることに気づいていたんじゃないかな。だって、朝家を出てから、教科書を全部忘れたことに気づいて取りに帰ったのだから。学校には遅刻しないで済んだけど、ちっとも授業に集中できなかった。一時間が信じられないくらい長く感じて、時計が気になって何度もちらちら見てしまって。見るのを我慢して、だいぶ時間が経ったと思ってまた時計を見ると、たったの5分しか経っていなくて驚いたっけ。
 すべての授業が終わって、学校を出ると、とても晴れ晴れとした気分になっていた。家まで全力で走って帰りたかったけど、息を切らして帰ったら、お母さんに笑われそうだから我慢した。だから私は、息が切れない程度に早足で帰ったんだ。
 玄関のドアを開けて、自然に「ただいま」と言ったつもりが、顔がにやけて困った。普通の表情に戻そうと両手で顔を抑えていると、お母さんに見つかって笑われちゃった。どのみち笑われるなら、全力で走って帰れば良かった。
「アキちゃん、9歳の誕生日おめでとう!」
 リビングに入ると、お父さんとお母さんが誕生日を祝ってくれた。テーブルの上にはバースデーケーキと、夢にまで見た『未来予想図』が並んでいた。テーブルの上がきらきらと輝いているように見えた。普段は帰るのが遅いお父さんは、私のためにわざわざ早く帰ってきてくれたんだっけ。私はすっごく嬉しくて、お父さんとお母さんに抱きついた。
「お父さん、お母さん、ありがとう!」
 いつもより豪華な夕ご飯とケーキを食べ終える頃、外はすっかり暗くなっていた。私はいよいよだと思って、『未来予想図』を両腕で抱きかかえながら部屋に戻った。『未来予想図』の外箱を開けて、本体を取り出して、勉強机の上に本体を置いたら準備完了。
 私は胸に手を当てて、深呼吸をした。椅子に座り、机の上の『未来予想図』の電源を入れる。当時、人気アイドルグループのメンバーであるヒロが本気で好きだった私は、心の中でこんな質問をした。
 
(将来、私とヒロは結婚できますか?)
 
 ここで「未来予想」ボタンを押すと、本体の内側がピンク色に光り、図形が現れた。かわいらしいハート型だった。私は意味を調べようと、分厚い解説書を開いた。まずは色で調べる……ピンク色。その次に形で調べる……ハート型。なるほど、ピンクのハートは「ソウルメイト」と呼ぶらしい。最後に、星座で調べる。ソウルメイトの乙女座……そこに書かれていた解説を呼んで、私は「絶対にヒロのお嫁さんになる」って確信したんだ。私は嬉しくて、部屋に飾ってあったヒロのポスターに思い切り抱きついた。
 
「そういえば、初恋の相手の名前もヒロだったんだ。すっかり忘れてた」
 うたた寝から目が覚め、体を起こそうとしたとき、ドアが開く音がした。
「……あれ、まだ夜中?」
 ヒロが寝ぼけた顔で言う。
「あっ、ごめん。もうお昼だよ。昨日もらった『未来予想図Ⅱ』を試しているところ」
 ヒロは状況がよく分からなかったようだが、発光する『未来予想図Ⅱ』を見て理解したらしく、
「あっ、なるほど。じゃあ起きようかな。おはよう」
 と言って、洗面所へ向かった。ヒロが起きてきたので、カーテンを開けキッチンへ向かった。テーブルの上に料理を並べ終えた頃、ヒロが戻ってきた。
「あれ、『未来予想図Ⅱ』はもういいの?」
 ヒロの言葉に少し驚く。どうやら興味があったらしい。
「また後で試すよ。その前に、今日は気合い入れてご飯を作ったから食べて」
「そうなんだ、それは嬉しい!」
 私とヒロはソファーに並んで座り、昼食を食べ始めた。ヒロは「おいしい」を連発してくれ、私は嬉しくなった。こういう素直なところがあるから、私はヒロと一緒にいるのかもしれない。
 食事が終わり、私がキッチンで食器を洗っていると、ヒロは進んで『未来予想図Ⅱ』の準備を始めた。
「部屋は暗くした方がいいんだよね?」
 カーテンが閉まり、部屋は再び薄暗くなった。ヒロがソファーに腰かけるタイミングを見計らい、私はキッチンからアプリを使って『未来予想図Ⅱ』を起動させた。幻想的な美しいメロディーが流れるや、
「わっ、ビックリした!」
 と狙ったとおりのリアクションをするヒロに私は笑った。
「これ、人を感知するの?」
「ふふ、違うよ。アプリで操作できるんだ」
「それはすごいね。あっ、光り始めた」
 ヒロの目の前で『未来予想図Ⅱ』は白く発光を始めた。食器を洗い終えた私は、ソファーに並んで座った。
「お待たせしました。それでは、いよいよ『未来予想図Ⅱ』のお時間です!」
「よっ、待ってました!」 
 ヒロが拍手をしながら合いの手をいれる。
「ところで、どういう風に使うのかな」
「簡単だよ。質問したいことを思い浮かべながら『未来予想』ボタンを押すと、色と形で答えてくれるの。答えは……昔は分厚い解説書が付属していたんだけど、今はアプリの中にデータとして入ってるみたい」
「色と形? ああ、この光に色がつくんだよね。色はわかるけど、形ってどんなだろう?」
「まだ試してないからわからないけど、テレビでちらっと見たときは、本体の内側に形が浮かんでたよ」
「へえ、この中に浮かび上がるんだ。すごいね」
 ヒロは『未来予想図Ⅱ』をなでながら感心していた。
「じゃあ、やってみるね」
 おもちゃだとは分かっていても、軽い気持ちで質問してはいけないような気になる。私は深呼吸をして、気持ちを落ち着かせてから、心の中で質問を思い浮かべた。
 
(将来、私とヒロは結婚できますか?)
 
 質問を思い浮かべただけで、胸の鼓動が早くなる。隣にいるヒロのことを質問するなんて、変な話だけど、私はどうしても子どもの頃と同じ質問がしたかった。私は胸に手を当て、祈るような表情を浮かべた。
「アキ、大丈夫?」
 心配したヒロが私の背中を軽くさする。
「うん……ごめん。じゃあ、始めるね」
 アプリの「未来予想」ボタンを押すと、本体の色が目まぐるしく変わり始めた。本体のスピーカーからムーディーな音楽が流れ、部屋一面がピンク色に染まった。本体の内側には光の筋が数本浮かび上がり、それらがゆっくりと図形を形成していき、やがて愛らしいハートを描いた。
「ピンクのハート……?」
 ヒロが小声でつぶやく。
「ピンクのハートは『ソウルメイト』……」
 20年前と同じ光景に、私の胸の鼓動はさらに早くなった。そうか、そういうことだったんだ。
「アキ、これはどういうことなの?」
 ヒロは答えが待ち遠しくてうずうずしている様子だった。
「ヒロ、よく聞いてね。私、20年まえにも同じ質問をしていたの」
「同じ、質問?」
 ヒロは不思議そうな顔をする。
「それでね。20年前も、今回も、まったく同じ答えだったの。答えは何も見なくても言えるから……」
「そうなんだ。ぜひ聞かせてよ」
 私はごくりとつばを飲み込み、小さい頃に暗記した答えを口にした。
「ソウルメイト、乙女座。ピンクのハートは恋愛の象徴であり、運命的なつながりを持つ『ソウルメイト』との出会いを意味します。あなたはソウルメイトと呼べる異性に既に出会っているか、間もなく出会うでしょう。乙女座のあなたに最もふさわしいソウルメイトは、天秤座の異性です。互いに支え合いながら、幸せな家庭を築くことでしょう」
 私が話し終えると、ヒロは感心した表情で答えた。
「俺、天秤座だ……すごいね!」
「そうなの。私、子どもの頃にも『ヒロと結婚できますか?』って質問したの。当時はアイドルのヒロだったんだけど」
 ヒロは、そういうことかという顔をしながら、
「えっ、そんなことって……」
 と驚いてみせた。
「ね、信じられないよね。なんというか、奇跡というか」
 私とヒロは、自然と手を握っていた。
「そうか、そういうことだったんだ……」
 ヒロは何かに納得したように独り言を言う。
「アキ、あのさ」
 ヒロはふいにこちらを向いて、まじまじと私の目を見つめた。ピンクに染まる部屋で、ムーディーな音楽が流れているせいか、雰囲気に飲み込まれそうになる。
「俺、ずっと言うタイミングを逃していて……その、心配だったと思うんだけど」
 ヒロの手には汗がにじんでいた。緊張した口調で話を続ける。
「『未来予想図Ⅱ』をプレゼントしたのも、何かのキッカケになればと思って……その、なんというか……」
 ヒロが言おうとしていることはもう分かっていた。
「ヒロ、がんばって」
 私はヒロの手をぎゅっと握りながら、次の言葉を待った。やがてヒロは勇気と緊張で爆発しそうな顔をして、こう言った。
「俺と……結婚してください」 
 その一言で私の涙腺は一気に緩み、涙があふれた。
 20年前の私、おめでとう。今、ようやく全部がつながった。あの頃『未来予想図』に出会い、それがキッカケで本が好きになり、『活字中毒』への就職がキッカケでヒロと付き合い始め、そして『未来予想図Ⅱ』に出会い、20年前に描いた未来へ導いてくれた。あなたの夢は、無事に叶ったよ。
「ずっとその言葉を待っていたよ。ヒロ、愛してる!」
 私は涙を流しながら、ヒロに思い切り抱きついた。